PARCO歌舞伎 決闘!高田馬場(2006/03/16マチネ@PARCO劇場)

ネタバレありますよ。ありますからね。
さて、これじゃ芝居に集中できないよ、と涙ぐみながら席に着いたが、「ぱぱぱ(「高田のばばば」だったのかも)、ぱぱぱ、ぱぱぱ、ぱぱぱ、パルコ歌舞伎見参!」で不本意にも笑ってしまって、頭の中のチャンネルが切り替わる。負けちゃったもんはしょーがない。これで芝居に集中できなかったら、苦労してチケット取った甲斐がないってもんだ。串田和美は古典を再構築し、野田秀樹アンチヒーローを描き、蜷川幸雄シェイクスピアを正攻法で歌舞伎化した。さて三谷幸喜は。
とにかく「走る」芝居になると聞いていたしテンポも良かったが、前半、長屋の住人たちの安兵衛との関わりを描いたシーンは少し間延びした印象があったし、そんなワケでみんなこれだけ安兵衛に尽くすんですよ、という説得力にも欠ける気がした。彼のために命を落とすことも厭わないってほどのことかなあ、っていうか。それと、これは原因が脚本にあるのか役者(勘太郎)にあるのかはわからないが、又八が安兵衛を裏切るまでの心理が見えづらい。完全に愛想を尽かしたようにも思えるシーンもあれば、中津川の誘いと安兵衛への思いとの板挟みで苦しんでいるように思えるシーンもありで、ハラがわからない。それがつまり又八の割り切れなさってことなのかもしれないけれど、もうちょっとその辺は丁寧に描いて欲しかったような。単にカモメがついて行けなかっただけかもしれないので、25日のwowow生放送でじっくり見てみよう。全体としては、三谷幸喜らしい「至極真っ当と思えることを真っ当な表現で喋っているのに、そこに隠れていた真っ当でない部分が垣間見えてしまってニヤリ」という部分がそこここにあって楽しかった。
役者陣は全員生き生きと芝居をしていた。伝統的歌舞伎と違って主要人物全員に見せ場があり、みんな演じ甲斐があったんじゃなかろーか。カモメは歌舞伎素人なせいか、普段は主役ばかりに集中して、脇の人物にまでなかなか目がいかない。高麗蔵や宗之助は何度も見ているはずなのに、そうかこういう芝居をする人たちなんだ、と今回初めて知った。そして特筆すべきは萬次郎のコメディエンヌぶり。基礎がしっかりあるとどんな芝居にも対応できるんだなあと再確認させられた。

  • 冒頭、にら蔵おもん夫婦が下手側通路を花道に見立てて引っ込む時に、客に向かって「安兵衛さん?」と声をかけた。振り返って見てみたら幸四郎がいた。昼夜歌舞伎座なのに見に来たんだなあ。
  • 染五郎、ほとんど出ずっぱりで大奮闘。
  • 亀治郎、彼らしい綿密な演技。ホリの時、声がちょいかすれてたのが残念。
  • 勘太郎、彼らしい涎とか唾とかまき散らし演技。弱い人間を演るのが上手な人だ。
  • 亀治郎三役目の村上庄左衛門、犬を連れていたけど、あれって何?なんかのパロディ?
  • 川を渡るシーン、付け打ちさんがシュノーケルをつけていて大笑いした。確かにあそこは水の底だ、うん。
  • 「早替わり」っつーんだから早いのは当たり前なんだけど、それにしても早かった。自分が誰を演っているのかわからなくなったりしないのかな。
  • バンテリンはこの回限定ギャグ?
  • ブレヒト幕を使いすぎじゃないかと思ったが、あそこまでやられると逆に「わかった、もお好きなだけ使ってくれ」ってな気分になる。