瀬戸内晴美集〜新潮文学全集58

『花芯』をはじめ、『夏の終り』『妬心』など私小説的な色の濃い、連作を含めた10篇を集めた短編集。20年ぶりに再読。
たとえば一流アスリートと呼ばれる人たちは、もちろん日々努力を重ねてはいるのだろうが、才能、資質にも恵まれているんだろうと常々思う。アスリートに限らず、学者なり作家なり役者なり料理人なりビジネスマンなり、なんでもいいんだけどさ。つまり、正しい資質を持った人が正しい方向に進んだ結果、成功というモノを手に入れることができるんであろうな、と、何に秀でているでもないわたしは思っているわけだ。
この短編の主人公たちは、精神を磨り減らして男を愛する。彼女を愛する男たちも磨耗する。愛情は本能のように言われるが、他人を深く愛することができるのは才能だとわたしは思っているので、その点はこの登場人物たちを羨ましく感じる。ただ、この中の誰もが愛を上手く扱うことができない。人を愛する才能がある故に深く深く誰かを愛して、愛すれば愛するほど悪循環に陥り自分の首を絞める。才能のあるアスリートが間違った練習法に凝り固まって、結果を出せずに途方に暮れている。他の方法も試すべきだと諭され自分でもそう思うのにどうしようもない。それじゃ成功はおぼつかない。そんな感じ。
作者が仏門に入ってもう30年くらい?愛を突きつめようとすると、行き着くところは神仏ってことなのかしら。